Iju - Keiji Tsuyuguchi

2024.08.14

私たちは近年、私たちが住む列島で、きわめて特異な空間の出現を体験した。東京電力福島第一原子力発電所事故により高濃度の放射性物質に汚染され、国によって名づけられ境界づけられ登録された、「帰還困難区域」と呼ばれる区域とその周辺区域の形成である。ここでもまた人びとは、従来の住むべき地から移ることを強いられ、その地を去らなければならなかった。皇居と帰還困難区域を生み出した諸力は、これらと類似性をもつと思われるいくつもの空間をいまも生み出し続けている。それらは、住むことの排除によって本来的には不可視であるにかかわらず、ひとつめの軸を構成する諸場所と交錯し折り重なって私たちの視線に現れる。そこで写真に写ったもの、すなわち目に見えると思われるものは、ありふれた風景、都市、鉱山、原子力発電所、農地、そしてそこで暮らす人々の住居である。

露口啓二 (写真集「地名」より)


日本史はその起源から強制移住の連続であり、そのことを想起することなしには、「東北」も「北海道」も見えてこない。古代の響きを持つ「開拓使」という官庁名は、維新政府が律令国家との連続性を誇示するために選ばれたものだ。露口啓二がまなざす 「移住」は、この途方もない「長期持続」の次元に身を置くことを要請する。

鵜飼 哲 (「犯罪の現場に戻る」より)